「お前、もうクランマークをつけているんだな。」
剃り頭が言う。
「なんと言うクランだ。」
オレンヂTVです、と答える。
「オレンヂTV・・」
皆が互いになにか囁き合う。
誰の顔にも優しげな懐かしげな、そしてどこか安堵の色が見てとれる。
「師よ、私のクランをご存じですか?」
「知らん!儂たちがトワなんて娘のことを知っているはずが、ない!」
ゲラン師が即座に否定する。
狼狽が浮かんでいる。
なぜ、トワさんの名を知っているのだ?
私はトワさんがプリンセスだ、とさえ言っていない。
明らかに話題を変えようとするかのように、ゲラン師が言う。
「そのクランに誰がいる。」
「ファインダーさんがいます。」
「おぅ、彼のことはよく覚えているよ。強く賢く、そして飄々(ひょうひょう)と生き
られる心の大きな男だ。」
ゲラン師が遠くを見つめる。
「騎士見習ファルク、ファインダーから学べ。学べるものは全て学び取るのだ。クランの仲間は君主を楽な気持ちにさせなければならない。楽な気持ちでなければ、良い心は育たないものだ。今のお前では周囲の者が疲れてしまうぞ。剣技同様、彼の生き方を学び取れ。」
「はい。」
「君主の全てが王にならなければならないわけではない。それでもクランの仲間に愛される君主のそばにいられることは幸せなことだ。君主の徳は仲間の世話をすることでなく、
仲間に愛されることによって育っていくものだ。たとえ、少人数でもな。」
妙に詳しい気がする。
「クランの仲間を信頼しなさい。」
マッサージ師が言う。
「そして、いつかあなたもクランの仲間に信頼されるような騎士になりなさい。
みんな、あなたのすることを全て見ているのですよ。」
「はい。」
「誰もが頭を持っている。金儲けは恥でも悪でもない。もっとも、どう使うかは持ち主
次第だがな。」
小売りの男が笑う。
「お前のその足りない頭を、兜の台のままにするなよ。」
「足りないって言うより、鈍いんだろう(笑)。」
「見ているだけで観察していないんですよ(爆)。」
好きなことを言ってくれる(^^;)。
一礼して退室しようとした私に、副官Bザムザが吼える。
「ファルク、生き急ぐな。生き急ぐってことは死に急ぐって事だ。生きてさえいれば
大概のことはやり直せるんだ。死んじまったら大事なひとを守れないぞ。」
「気合いを入れろよ、兄弟!」
副官Aジョシュアがウィンクをくれる。
室内の皆が私を見ている。
私の視界が滲む。
私は、背を向ける。
扉を閉める。
晴れ渡った空を見上げ、遙かなTIを目指す。
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