1.第一印象
次にワールドに入った時、私はクラチャしなかった。
今は、トワさんに会いたくない。
行く宛もなく、あちこち歩く。
TI、
グル、
そしてケント
道具屋の隣に大きな屋敷がある。
門が開かれ、戸口から笑い声が漏れてくる。
風の向きが、変わった。
「・・気のせいかな。ケリーママの声が聞こえたみたい(;;)」
そう、こんな時こそ手を差しのべてほしい。
苦しんでいるトワさんの力になってほしい。
「気のせいではありませんよ。どうぞ入ってらっしゃい^^」
屋敷の中から、知らない声が呼んでくれる。
戸口をくぐる。
大きなホールの、一番奥に
「ケリーママ!」
「^^」
「お帰りなさい(^^」
「・・喜んでくれるの?」
「もちろんです!」
ケリーママの手を取り、踊るように回る。
にこにこしながら、ケリーママは、されるまま。
「よかった。今日、完全復活なの」
ケリーママのいなかった、リアルでの数週間が瞬時に埋まる。
「ママ、トワさんと話をしてあげて!」
「?」
トワさんの、そして私のここ数週間を話す。
「トワは強い子よ。ママにまかせて、ファルクさんは自分のことをしなさい」
「はい」
「ファルクさんは大丈夫?」
「・・私より、どうかトワさんを・・」
「・・わかった。トワに聞いてあげる。でもこのキャラ、まだレベル5に
ならないから、Wisできないの」
「え?」
「ケリーも誰かに取られちゃったし^^」
まさに、生まれたてのケリーママ。
招き入れてくれた屋敷の人たちに感謝して、外へでる。
さらに彷徨(うろつ)く。
いつしか辺りが暗くなる頃、ケントに戻る。
広場にトワさんと、見知らぬプリンスが話をしてる。
引き返すのもおかしいので、挨拶する。
「こんばんわ」
「あ、いたw」
無理矢理な上機嫌っぽく、トワさんが振り返る。
「ファルク、昨日、話したよね」
「はい」
「あぁ、彼が・・」
「初めまして、プリンス」
「はじめまして〜^^」
眼が面白そうに光っている。
名前を聞く。
「・・・竹流さん・・?」
断片的に、思い出した!
あいつ、か?
***
しばらく前、SKTで見かけた光景。
さして広くないSKTの広場に、騎士、Wiz、エルフを何人も並ばせていた。
号令をかける女性エルフと男騎士。
その集団を見おろすように腕組みするプリンス。
たしか、竹流、と言ったはず。
その姿は、私には権力志向剥きだしに思えた。
「ちゃんと並んで〜。では、出発します〜」
どこへでも行けばいい。
私は町を出て、SKTCへ逃げ込んだ。
また、別の光景。
TIの、ケントの町中で楽しげに女性キャラと戯れているプリンス。
明らかに初対面風なのに、その態度は手慣れた感じがする。
私には関係ない。
通り過ぎる。
しかし、よく目立つプリンス。
たしか、竹流、と言ったはず。
どの光景にも、いい印象を持っていない。
そのプリンスが!!
面白そうに、かつ不思議そうに私を見る竹流さん。
険しい眼で見返す、私。
沈黙
トワさんが遊び始めた。
「221」
「221番地〜」
「221番〜」
色を、フォントを変えながら、私の肩書きが踊る。
「なに、やってんだか(^^」
竹流さんと私が、ハモった。
え?
お互いが、相手を見た。
やはり、沈黙。
だが、さっきまでと違う、何かが流れ始めた。
「・・・トワさん、お願いがあるんですが」
「なによ」
「私の肩書き、変えてください」
「いまさら?」
「・・しばらくだけでも・・」
「・・なにがいいの?」
「黄色で、永遠の鉄砲玉」
「めんどくさーい」
「7文字以内だから、平気でしょ?トワ」
肩書きが、変わる。
「クラン解散するまでよ」
「一日でも、いいんです」
「・・・」
「・・・」
「・・で、ファルク、どうする?」
「やっぱり独りでいようか、と」
「あのね〜」
「まぁ、ファルク君だって考える時間が必要よ」
「すいません」
私はその場を去った。
当のプリンスとは、ほとんど話をしていなかったのに気がつかなかった。
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