16.銀の騎士

「ところでファルク、装備は?」
「骨セット以外は、防具強化しています」
「ファルクは速攻型だから、装備を調えなきゃかな?そろそろエルヴンチェーン
メイル(ECM)とエルヴンシールド(ES)にするか。ライラエ、ファルクに
作ってくれる?」
「材料はあったと思うけど・・」
「ESはあります」
「じゃ、僕の顔で、格安特急でお願い^^」
「あの、急がなくても・・」
「作るのは大変じゃないけど、森に帰らなきゃだから、すぐには無理よ^^」
「じゃ、作って売ってください。お願いします」
「はい^^」
ECMもESもエルフメイドと呼ばれる、白銀(しろがね)に輝く防具で、軽く
扱いやすい。その代わり値段も結構する。なにせ、人間嫌いなエルフが気まぐれで
作らない限り、売りが出ないのだ。
その時、あやさんのクラチャが鳴った。
@「祝福されたバンデットメイル、だれか要りますか?」
@「おめでとー^^、あやなり、ハピから?」
@「はい^^」
祝福された防具は、不思議な特性を持つ、と言われている。噂にしか聞いたことの
ない、ECMよりも防御力の高い伝説の鎧。
@「どうしようかな」
まっちゃんが悩む。
@「まっちゃん、買いなよ。あやさんのなら、御利益(ごりやく)、あるよ^^」
@「ファルクなら、どうする?」
@「私は今。買えないから・・」
ライラエさんにクラチャは聞こえないが、一日に鎧2着は、ねぇ(^^
@「う〜ん」
@「ちょっと重いですよ」
@「まっちゃんなら、着れるでしょ?」
@「そりゃ、着れるけど・・」
@「・・・まっちゃんが要らないなら・・」
@「よし、買った!」
@「・・・いじわる(^^;」
あやさんと落ち合って購入できるんだ、ありがたく思いなさい(^^

***

自分は騎士として、どうなんだろう。
疑問の先に、以前諦(あきら)めたゲラド師の試練があった。
噂からすると、私ではまだ、修行がたりない。
かなり高位の騎士でも、試練をクリアしていない者が多いという。
それでもある日、私はSKTのゲラド邸の戸を叩いた。
「また来たか、少しは上達したか?」
「それを試みにきました」
「まぁ、気を付けていってこい」
ゲラド師の眼が優しげに思えた。
歳を取られたんだな。
SKTの倉庫に装備品全てを放り込むと、北外れの洞窟に行く。
私より高位の騎士が、順番を待っていた。
後ろに並ぶ。
クラチャであやさんの声が、踊る。
@「北砂漠、あや小隊、出撃します^^」
@「あいー、気を付けて^^」
竹流さんは、まるで心配していない様子(当たり前、か)。
@「ちょっと、ややこしい事するので、クラチャしません」
@「頑張って^^」
順番待ちをしながら、以前の道順を思い出す。
それにしても、この試練ってなんなのだろう。
洞窟、毒ガス、無数の狼、そしてウェアウルフ。
道順をさらいながら、心は別の意味を探っていく。
@「バジから帰還(;;)。4戦2勝2敗でした」
@「2敗ってあやさん、逝ったの?」
@「ううん、逃げ帰っただけ」
@「死んでなければ、負けじゃないよ。2勝2分け、ですね^^」
@「そうね、2勝2分け、ね^^」
いつの間にか、私の前にはだれもいなくなっていた。
「ミスター、どうやら中は空いたようです」
ガードが声を掛けてくれる。
私は半分、上の空で、洞窟を降りていった。

***

キャンドル一本では、辺りは暗い。
ダガーの軽さ、小ささは心許ない。
それすらも忘れていた。
思い出すまでもなく、身体が通路を抜け、部屋を横切る。
あんなにいた狼が、姿を潜めて道を譲ってくれる。
邪魔してくる狼は数少ない。
道奥に書類の束が落ちていた。
拾い集めると、その下にずっしりくる鍵が一本、隠されていた。
まだ考え事に夢中の私は、無意識で拾い上げ、道を引き返す。
見通しの利かない、暗い道
防具も武器も役にたたない、毒ガスの道
小さな明かりを信じて、邪魔を押し通る
そして・・
いつしか階段に戻っていた。
鍵を開け、小部屋に入る。
狼数頭とウェアウルフが襲ってきた。
幾本もの牙をかいくぐり、ダガーを振るう。
ウェアウルフが倒れた。
その牙をえぐり取り、ゲラド師の邸に戻る。
まだ私は考え事に夢中だった。
ゲラド師にウェアウルフの牙を渡す。
「よくやった。お前の道は、見えたか?」
その時、見えた!
私にとっての、ゲラド師の試練の意味が!
小さなキャンドルはプリとその理想を意味し、ただそれを信じて何処へとも分からぬ
ロードを、自分の血を流しながら一歩一歩進んでいく。
そして己が手にするは、極めて小さな栄光。
私は、興奮して、ゲラド師に語った。
「ファルク、良いプリに出会えたようだな。その気持ち、忘れるな。
この試練に合格不合格は、ない。誰もが同じ銀の盾を授けられ、銀の騎士を名乗ることが 許される。意味するところは誰にとっても、違う。お前の得た答えはお前だけのものだ。
他の者に強要しても、示唆してもならない。
 単にアイテムゲットのためであっても、何かを感じ取った者でも褒美は同じだ。
騎士は己の内なる正義から、自分だけの報酬を得ることで満足せよ。」
ゲラド師は鈍い銀色に輝く盾を取ってこさせた。無骨に重く、分厚い。ESの洗練さに
及ぶべくもない。
「騎士は魔法に通じていない。それはどれだけ高位の者でも同じだ。グンターは魔法に
代わるなにかを剣に込めようとしている。
「この銀の盾は、僅かに残された騎士の魔法力にのみ反応する魔力が込められている。
時代遅れで使い勝手は悪いかもしれん。だが、言ってみれば騎士自体が時代遅れなのかも
しれんのだ。この試練に意味を感じた、お前もまた、古いのだろう。」
ゲラド師は、少し笑った。
「お前も感じたろう。わしの試練は、甘くなっている。お前が依然受けたときに比べて
毒は薄くし、狼の数は減らした。今後はもっと、甘くする。仕方がないのだ。
時が迫っている。質はともかく、銀の騎士の頭数を揃えねばならんのだ。以前なら決して
受けることの許されない様な者にさえ、わしらは貴重な盾を授けねばならんのだ。
「行くがいい、銀の騎士ファルク。見習い卒業だ!」
私は一礼し、ゲラド師の邸を出た。
行くべきは、決まっている。
WB。

***

WBの宿裏にあやさんが立っていた。
「おかえり^^。見て、これが出たの」
あやさんがバジのドロップしたアイテムを見せてくれる。
見たこともない、貴重品だった。
「おめでとー^^。私は、これ」
銀の盾を見せる。
「見たことないわ。なにから?」
「ウェアウルフ、かな」
「知らなかった^^」
さっそく出掛けようとする。
「ゲラド師に換えてもらうんです。」
「ゲラド?」
「騎士の第2の試練、知りませんか?」
「蜘蛛のしか知らない。どんなことをするの?」
あらましを説明する。
「あやさんに最初に見せたくて。これで見習い、卒業です」
「卒業なんだ^^。おめでとう」
クラチャで竹流さんに報告。
@「銀の騎士に、なりました〜」
@「え?ゲラドの試練、終えたの?」
@「はい、今さっき」
@「そうか、おめでとう」
@「クランで何番目ですか?」
@「・・・たぶん、まだいなかったはずだよ」
竹流さんとあやさん、ふたりの口調に共通した何かが流れていた。
砂漠の町に朝日が昇り始めた。


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