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辺り一面に不思議な怪物が立っていて、無数の男女が怪物と戦っている。
カンカン響く音の正体は、この戦いの音だったのだ。
よく見ると怪物は足が地面から生えている。
近くに寄って見ると、怪物は木でできた木偶(でく)だった。
しばらく眺めていたが、軽鎧の言葉を思い出し、皆のまねをして木偶を叩く。
ドズッ
明らかに皆と音が違う。もう一度。
ドズッ
ダガーが弾かれる。もう一度。
ドズッ
不意に木偶が回転し、腕が私の頭に当たった。
痛みと悔しさで目がくらむ。手が痺れる。
背中越しに笑い声が響く。
振り返ると若い女性の騎士だった。
「あなた、1st?」
初めてのサーバの初めてのキャラであることを告げる。
女性騎士はにっこりして言う。
「私も今日が始めて。どう、私の仲間に入らない?」
私がうなづくと、女性騎士はついてくるように言い、歩き出した。
女性騎士は芙美子、と名乗った。
私にはまともについて行くことも、ままならない。
そんな私の様子を面白がるように、芙美子さんは村を抜け、あの剃り頭の
近くに向かう。
村の入り口に、一人の男が立っている。
テレポートのボランティアのイルドラス、だそうだ。
テレポート!また殴られるのか?
私は顔色を変えた。
「そっか、テレポート、知らないんだ。」
芙美子さんが笑顔で私の肩に手を添える。
「遠くに行くから、心を楽にして。」
ふと、眼の端に蝶が飛んだ。
蝶を追って眼を動かすと、見知らぬ場所にいることに気が付いた。
眩暈が、ある。
捩れるような景色を、やっとの思いでねじ伏せ、歩き行く芙美子さんを追った。
「トワさ〜ん、連れてきたよ~。」
芙美子さんの行く手にひとつの集団が立っていた。
五月の葉のように、キラキラした可憐なプリンセスが屈強な騎士たちを従えていた。
「あなた、入ってくれるの?クラン。」
クランとはなにか、尋ねる。
「大したことじゃないよ。お仲間ってやつさ。」
立派な身なりの騎士が笑う。
「ファルクです。よろしくお願いします。」
私は皆の、そしてプリンセスの笑顔に引き込まれるように、頭を下げる。
自慢じゃないが、私は口が重い。
人見知りするのだ。
自分から名乗るなど、いままでに一度だって、なかった。
「うちは客商売なんだから少しは愛想良くしなよ。」
と、お袋に言われていたのを思い出した。
「1stの1stなんだって。」
芙美子さんが私の代わりに答えてくれる。
「じゃ、こっち向いて。」
プリンセス=トワさんが言う。
自分ではそっちを向いているつもりなのに、なにも起こらない。
トワさんが自ら回りこんで、私の正面に立つ。
「Y、だよ。」
その瞳を見つめていると、その集団に深い親近感が沸いてくるのを感じる。
「これ、いつも左肩につけてて。」
差し出されたワッペンはオレンジ色のTVが描かれていた。
「じゃ、あたしはもう少し、人形を叩いてくるね。」
「ウイw」
「いてらーw」
芙美子さんがあの村にいた「テレポートさん」と良く似た男に近づき、突然消えた。
「あれがテレポート屋のドリスト、さ。」
ファインダーと名乗る、若いが屈強そうな騎士が教えてくれる。
「来たばかりかい?じゃ、しばらくは人形叩きだな。」
「しばらくって、いつまでです?」
私の問いに、ファインダーさんは少し考えていたが、腰の刀を抜くと左手に持ち替え、
振った。
シュ・フィン!
鋭い風斬り音とともに、一筋の輝きが走った。
「ファルクも振ってみな。利き腕でいいから、ね。」
私は振ってみた。いままでで一番まともに振れた。
しかし、音はせず、切っ先は波打っていた。
「利き腕でいいから、さっきのファインダーみたいな音がするまでよ。」
トワさんが笑顔で答える。
少しきまりが悪くなって、私は木偶叩きに戻る旨を伝えた。
「ウイウイw」
「頑張ってな」
皆の声が暖かい。
テレポートされる感覚の間(はざま)に、微かに耳に残った声。
「あれは、時間かかるぞ〜(^^)
私もそう思っているところさ。

*****

谷あいの村に戻る。
やはり眩暈がする。
どうやら私はテレポートに慣れることはなさそうだ。
歩ける所は歩いて行こう、と私は決めた。
木偶に向かい合っていると、隣でやはり木偶と格闘していた男性が
声を掛けてきた。
「クラン、入ったの?知り合いの所?なんてクラン?」
いけね、クラン名なんて聞かなかった(^^; 。

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