2.オーク

しばらくは木偶叩きとゲラン師の講義の毎日。
単調な時間が過ぎてゆく。
芙美子さんが声をかけてくれる。
「どう?うまくなった?」
「まだまだ、ですね。」
私の耳にはファインダーさんの風斬り音が残っている。
私は芙美子さんに尋ねた。
「トワさんのクランって、人数多いんですか?」
「どうかな〜。私はあの日、3人連れて行ったけど。」
「じゃあ、大所帯だ(^^ )
芙美子さんは笑って、去って行った。
芙美子さんを見かけたのは、それきりだ。

*****

身体が木偶叩きに慣れてきた。木偶の胴体だけを見つめることがなくなってきた。
と、私の身体が、ブレた。
時を過(あやま)たず、木偶の腕が飛んできた。
(あっ)
思った時には私のダガーは、木偶の腕を斬り飛ばしていた。
彼方の方で悲鳴が上がる。
「木偶の腕が降ってきた!」
番小屋からうんざりした様子のガードが出てきた。
小脇に新しい木偶を抱えている。
叱られるのを覚悟して、身を硬くしている私に見向きもせず、壊れた木偶を交換する。
そして、帰り際にこう言った。
「そろそろ森に入ったらどうだい?ミスター。あんたはお金(アデナ)が稼げるし、
俺は人形を抱えなくてすむからな。」
耳まで真っ赤になって、私は答える。
「まぐれ、ですよ。」
「俺だってそう思っているさ。」
ガードは、吐き出すように言う。
「だが、お前さんの【まぐれ】が確実に俺の仕事を増やしたんだ。これ以上はごめんだ。」
その時、肩のワッペンから声が流れた。
「頑張ってるかい?ファルク。」
ファインダーさんの声だ。
「はい!」
私は声を出した。周りの皆が不思議そうに振り返る。何人かは笑って木偶叩きに戻る。
「半角の@をつけて話すんだよ。ファルク。そうしないと聞こえない。」
ぎこちなく半角@をつけると、どこにもいないファインダー先輩の気配が感じられる。
そればかりか、トワさんや名前は知らないけれど、妙に懐かしい複数の気配がする。
「ファルクです。」
「どうだい、進んだかい。」
ファインダーさんの声が暖かい。
「ガードにそろそろ森へ行けって言われました。」
「ほぅ!」
「まぐれでも、邪魔だって。」
皆のクスクス笑う声が聞こえるようだ。
「おぅ、行って来い。ウサギでも鹿でもいるから、危なくない奴を見極めろ、な。」
私は小動物を相手にするのは、嫌だ、と答えた。
反撃できない小動物を手にかけるのは、私の趣味ではない。
たどたどしく抗議する私に、ファインダーさんはあきれた様子も感じさせずに言った。
「じゃ、ゴブリンかコボルトだな。オークは黒い奴に近づくな。無理をするなよ。」
「はい」
はい、とは答えたが、オークがいると聞いては血がたぎる。


次へ…