落ち着いて眺めていると、各人がモンスターを分け合っている。
私のような初心者のために、装備のしっかりした連中はゴブリンやコボルトを狩らない。
上級者同士ほど狩の軸線が交わらないのだ。
また初心者同士がどちらが倒したかを言い争っていると仲裁するのもまた、上級者だ。
ここはある意味で、学校なのだ。
まだ弱い者のためには、モンスターと一対一になれるよう見守ってくれる。
なんと言ってもゾンビに対して守ってくれるのだ。
ゾンビは、強い。
その上、いきなり現れてはどこまでも追ってくる。
足取りは遅いのだが、諦めないのだ。
逃げ惑う初心者に、余裕のあるものが声を掛ける。
「h?」
助けが必要か?
追われるものが「h」と答えれば、すぐにも飛んできてくれる。
そして一言二言声を掛けて去っていく。
カッコイイのだ。
見とれてばかりはいられない。
辺りが暗くなってきた。
以前拾ったキャンドルを点す。
わずかに周囲が明るくなったが、近づかないとモンスターが見えない。
私は慎重に歩を進めた。
オークが光の輪の中に入ってきた。
どこへも行かず、濁った眼で私を睨む。
だれにもFAを取られていないようだ。
私は雄叫びを上げる。
オークが吼える。
刃が交わり、火花が飛ぶ。
互角、なのだ。
幾つめかの傷を受ける。
私のダガーが下がり始める。
オークが笑った。
私は、あの赤い液体を取り出すと、一気にあおった。
身体が火のように燃える。
オークの笑みが凍りつく。
勢い任せに、ダガーを払った。
笑みを張り付かせたまま、オークの首が飛んだ。
そして
静寂。
その日、初めて私はオークに勝った。

*****

オークはショートソードを持っていた。
壊れてはいないらしい。
振ってみる。
結構バランスがいい。
私はダガーをしまい、ショートソードを構えて歩き出した。
次のオークは先程よりは梃子摺(てこず)らなかった。
倒れたオークを探っていると、どこからか矢が飛んできた。
皮のジャケットに刺さる。
深手ではないが、痛い。
目を凝らすと弓を持ったオークが、いた。
二の矢をつがえようとしている。
そうはさせじと、走り寄る。
一瞬早く、矢が放たれる。
右肩を切り裂く。
私はショートソードを振り上げる。
一撃目は、弓の先に払われた。
二撃目は、外さなかった。
幾度か斬りつけると、オークは動かなくなった。
数枚のアデナのほか、弓と矢を拾った。

*****

戦利品の弓を引いてみる。
矢がまっすぐに飛ばない。
オークの矢が曲がっているせいもあるが、もともと私は不器用なのだ。
動作が、遅い。
どうしても次の動作に遅れが出る。
考えてからでないと、動けないのだ。
つまり咄嗟に弱い。
夜が明けようとしていた。
薄暗がりの中から、黒いオークが現れた。
私を睨む。
今までのオークと、明らかに格が違う。
私よりも、格上なのだ。
動けない。
頭が真っ白になる。
恐怖、を知った。
死、を感じた。
と、
蔑(さげす)むような眼つきで、黒いオークは去っていった。
私は、座り込む。
今夜の狩りは、私には十分だ。

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続く…