やっと教練場を抜け出して、南の荒れ地を目指す。
荒れた大地をゴブリン達が我が物顔で行き来する。
何頭かと戦っていると焼け落ちた村に着いた。
崩れた軒先で、一休み。
どこか故郷の村と似ている。
オークがうろついている。
狼が私を睨んでは、去っていく。
半島の先から戻ってきた上級者に様子を尋ねる。
「この先にも、焼け落ちた村がある。」
では、と村の先を行こうとすると、上級者が声を継ぐ。
「お前さんじゃ、まだ無理だ。この先はオークファイターとゾンビの巣だ。」
黒いオークと、ゾンビ!
覗くだけですぐ戻るから、と言い訳して先を行く。
*
歩を進めると、狼が襲ってきた。
強い!
どうにか撃退する間もなく、
次の狼が、
来る!
狼に切り下ろす、その瞬間、
私の背中に新たな激痛が走る。
ものすごい腐臭。
振り返る。
崩れかけた顔が、あった。
ゾンビだ。
剣を向ける暇もなく、私は意識を失った。
*
気が付くと、あの剃り頭が声を掛けてくる。
「どこに行って来た。」
「南の、荒れ地・・。」
やっと、それだけ言う。
「だと思った。そいつはゾンビの爪あとだもんな。」
私のジャケットは見事に切り裂かれていた。
「あいつにマッサージしてもらって、今日は寝ちまいな。」
はい、と答えて剃り頭を離れる。
世界が、揺れている。
眼が、足が、揺れている。
定まらない視界の中で、マッサージ師を探す。
「昨日の方ですね。」
マッサージ師が見えない眼を私に向ける。
「これは・・。今日は少し、痛いですよ。」
彼の手が触れた途端、体中が紫色に爆発した。
声も、出ない。
二度、三度、
眼から炎が吹き上がる。
ゾンビの爪すら羽箒(はねぼうき)に思える激痛!
倒れ付して動かない私に、マッサージ師が言う。
「やれやれ、ガードを呼んであげましょう。」
「それ・・には・・及び・・ま・・せん・・。」
私の意地が、口から漏れる。
彼の口に、笑みが漏れる。
私の無様な様子にも嘲笑の声は、ない。
「あなたと同じ目に会ったことのない人は、ここにはいません。誰もがなんども経験しているんです。そして、あなたもこれが最後ではありますまい。」
周りの騎士見習たちから、賛同の声が上がる。
「生きていれば、失敗は経験に替えられます。失敗を学べない人は、ここから去ることに
なるのです。永久に。」
マッサージ師は寂しげに語る。
「たくさんの有能な騎士見習が私の所に来ました。あなたより強い人も、大きい人も、
速い人もです。彼らの多くは、自分の希望を探しに、巣立っていきました。
「失敗には恐怖と次回へのステップが潜んでいます。失敗から学べた人だけが、未来を
探しに行けるんです。しかし、失敗から恐怖しか得られなかった人は」
マッサージ師は見えない眼で、何かを見つめている。
「どこかに消えて、それっきりです。」
彼が口を噤(つぐ)んだので、私は礼を言ってようやく起き上がった。
「失敗して恥をかきなさい。恥を感じなければ向上したい、と思えませんよ。」
私の背中に、彼の声が優しい。
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