陰口やうわさは、必ず本人に届く。
私をこう呼ぶ者がいるらしい。
孤児
実際、家族は行方不明なのだからかまわない。
が、
どうもそう言った意味ではないようだ。
そんなある日、講堂の影から数人の笑い声が聞こえた。
孤児のファルク
私は駆け寄って、首領格を問い詰める。
始めはノラリクラリと否定していたが、面倒くさくなったのだろう。
孤児のファルク、を認めた。
一斉に彼の仲間たちが喚く。
「お前のクランマークは、鳴らないじゃないか。」
「お前はクランに捨てられたんだ。」
「初めから、からかわれていたのさ。」
違う!
トワさんもファインダーさん達もそんな人じゃない!
じっくり、待ってくれているだけだ!
激しい口論
不意に私は口篭もる。
確かに、あれ以来、誰とも会っていない。
会っていないが、わかる。
心で感じられる。
それがうまく話せない。
口の重いのが、恨めしい。
真っ赤になって黙り込んだ私を残して、彼らは去っていった。
私は泣いたりしない。
でも、風景がぼやけるのは、なぜだろう。
*****
ふらり、
と森に入る。
誰かと話すと、爆発してしまいそうだ。
八つ当たり気味に、藪を払う。
いつからか、一頭のシェパードがついてくる。
「しっ」
追っても人懐こそうな顔で、キョトンと私を見ている。
そのくせ、私が近寄ろうとすると
跳び下がる。
私が離れれば、ついてくる。
近づけば、逃げる。
こんな気分の時に、とイライラしてくる。
私はフェイントをかけて、素手でそのシェパードを殴った。
シェパードは、歯を剥き出しにして、飛び掛ってくる。
木が一本生えているだけの空き地で、私たちは転げまわった。
組み伏せる
噛み付く
殴る
引っかく
私はやけになって、荷物袋の中身を投げつけた。
偶然、肉だった。
と、
シェパードが、食べた。
夢中で食べ終えると、その場にひれ伏した。
私は赤い液体を飲んだ。
シェパードが私を見ている。
シェパードにも飲ませてみる。
私の手から、飲んだ。
お互い傷だらけだ。
私とシェパードは、寄り添って朝日を待った。
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