SKTの街に着く。
渓谷の何倍も、広い。
行き交う冒険者たちは、結構な身なりをしている人も多い。
人混みの中に、見覚えのある顔を見つけた。
「Depth君!」
彼に私の声は届かなかったのだろう。
数人の一団に従って、どこかへ行ってしまった。
さて、どっちに行こう。
ケント城は深い森に囲まれている、という。
かたやウッドベックは砂漠の村。
私は田舎者だから、大きな街は落ち着かない。
でも山育ちだから、緑の多い方がいい。
砂漠は嫌いだ。
有料テレポーターのメット嬢にアデナを払い、一瞬にしてケントの城下町に着く。
目眩(めまい)の落ち着くのを待っている私を、チールが不思議そうに見つめる。
ケントは、大きかった。
SKTとは比べものにならない。
群衆。
唸るようなざわめき。
呆けたように、立ちつくす。
人波にもまれ、突き倒される。
「チール・・。」
私の知り合いは、彼だけだった。
チールは突然、一声吼えると歩き出した。
私はついて行くばかり。
街のはずれに犬小屋が、あった。
何人もが管理人と話をし、ある者は犬を預け、ある者は引き出して行く。
人混みが途切れたとき、管理人が私を見つけた。
「若いの、なにか用か。」
私は犬を預けたい、と言った。
管理人は笑った。
「犬小屋は犬を預けるか引き出すか以外の、他になにが出来るって言うんだい。貸してみな。ほぅ、いい犬じゃないか。」
手慣れた様子でチールの世話をしてくれる。
「犬は引き出すときに手間賃をもらうよ。いつでもどうぞ、さ。」
私は人混みの中へ引き返す。
街の中をうろつく。
この街のテレポーターを、探す。
何人かの騎士に声をかけ、案内を乞う。
さすがにウィザードやエルフには声をかけられない。
ましてやプリンスたちでは近づくこともできない。
テレポーターをやっと、見つけた。
SKTへの転送を頼む。
困った様子で、テレポーターが言う。
「私はSKTへは行ったことがないんです。」
私もよく知らない、と答える。
「いえ、そうではなく、私たちは自分の記憶している場所へしか、お連れできないのです。」
「では、他の人に頼むことにします。」
「お気の毒ですが、この町のテレポーターは、私だけです。」
ぞっとした。
唖然とする私に、若い騎士が声をかけてくれる。
「ここからSKTはさほど遠くない。地図を買いなさい。街をでて川沿いにしばらく行けば橋があって、その南の森の奥がSKTだ。連れていってやりたいが、約束があるんでね。」
騎士は、私の身なりをみて、犬を連れていった方がいいとアドバイスしてくれた。
道具屋を探し、地図を買った。
帰還スクロールなる巻物も、買った。
これを使うと近くの町に飛び帰ることが出来るそうだ。
迷いながら、やっと犬小屋を探し、チールを引き出した。
「おや、ずいぶん早い引き取りだね(笑)。」
さっきから、その時の私にとって決して安くはないアデナを払い続けだ。
その上、これから知らない道を歩いて帰るのだ。
なにをやっているんだろう。
こういう時にこそ、クランを頼るべきことに、気がつかなかった。
私はチールと共に、トボトボとケントを後にした。


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