ケントの西門を出ると、大きな川がある。
川には石橋が掛かり、人通りが途切れない。
意気揚々と渡っていく者。
大きな荷物と、それ以上の疲労を抱えて帰ってくる者。
川の向こうからは微かに剣戟の音が聞こえる。
橋の手前で南に折れ、川沿いに進んでいく。
片側の森の中から、時折オークが顔を出す。
今は、付き合っていられない。
川は途中で大きく北東に曲がった。
河原にはワニのような、トカゲのような頭のモンスターがいる。
地図を頼りに森沿いに進んでいく。
しかし
この地図には橋が描いてない。
トカゲ人間を見かけなくなったあたりで、川は東へ向きを変える。
橋なんか、ない。
来た道を、引き返す。
チールにも私の不安がわかるのだろう。
怯えた様子でついてくる。
と、
カサカサという乾いた足音が迫ってきた。
見たこともない、巨大な蜘蛛だ!
私は、逃げた。
逃げ切れない。
差を詰められ、背中に幾度も蜘蛛の足が当たる。
吹っ飛ばされつつ、逃げる。
帰還スクロール!
ここがSKTの近くなら、帰れるだろう。
そうでなければ、ケントに戻れるはずだ。
私は巻物を解いた。
一瞬のジャンプの後、私は、見た。
信じられないほど、美しい街。
石畳
賑わい
喧噪ではなく、活気と静けさが同居する都市。
優雅なたたずまいの街並み。
行き交う人たちの服装は、壮麗に尽きる。
私に出来ることは歩き回ることだけだった。
何軒もの軒先を覗き、門前払いを食う。
微かに冒険者のにおいを残した若い男がいた。
後をついていく。
若い男は街の中心を抜け、角を曲がる。
大きな店が何軒も軒を連ねる。
地図を、買った。
やっと都市の名前が分かった。
ハイネ
荘厳な街。
街を出て西に向かえば、さっき蜘蛛に襲われた辺りに戻れそうだ。
城門を抜け、川沿いに西へ向かう。
いくらも行かないうちに、巨大な亀が襲ってくる。
逃げようとした先で、半裸の女が笑う。
女の下半身は、毒々しい蛇、だった。
女の爪が食い込む。
亀がチールを押しつぶそうとする。
私には以前手に入れて、使ったこともない巻物が数巻あった。
ランダム・テレポート
飛び出した先は、森の中。
西へ進む。
中型の熊のようなモンスターが襲ってくる。
剣を合わすが、どうにもならない。
ランダム・テレポート
今度は回りを堀で固められた島に出た。
出口を求めて、堀の内側を巡る。
振り返ると、巨大なワニが迫ってくる。
何頭も、何頭も
逃げる。
逃げるほどにワニの数が増える。
「h?」
助けがいるか?
周囲の誰彼から声をかけられる。
「h」
助けてください。
一声が限界。
何人もが救援に来てくれるが、ワニの数は減らない。
「動かんでくれ、当てられない。」
そう言われても、恐怖で立ち止まりさえ出来ない。
倒れかけた時、一枚残っていた巻物が偶然、解けた。
帰還スクロール
消えゆく私の背中に、罵声(ばせい)が飛ぶ。
「始末できないなら、大名行列なんかするな!」
お世話をかけたみなさん、申し訳ありません。<(_ _)>

*****

着いたところは、またハイネ。
気を取り直して、西へ向かう。
が、
幾歩も行かないうちに、モンスターと遭遇。
そして、
剣を合わせる間もなく私は意識を失った。
(チール、お前はどうなるんだろう・・)
最後に浮かんだのは、まだモンスターに吼え掛かっているチールのことだった。

*****

気がつくと、やはりハイネ。
チールは、いない。
絶望感が押し寄せる。
私は沈んだ。
チールがいてくれてさえ、この町を出られない。
まして一人では、意識を失うたびに、ここへ戻されるだけ。
私は、ここまでか。
物乞いをして暮らすのは、いやだ。
自分の身を始末する前に、もう一度トワさんやファインダーさんたちに会いたかった。
あてどなく、街をさまよう。
中心地を少しはずれた所に、テレポーターが、いた。
彼女はSKTを知っているという。

支払いに足りるアデナが残っていない。
さらに、さまよう。
一軒の店の前に出た。
どうでも、いい。
私は店に入った。
食べさせてくれるなら、騎士を捨てて店番になろう。
店の主人は私のみすぼらしい身なりを一別する。
「お客さん、荷物を見てあげよう。」
どうせ、大したものは入っていない。
荷物袋ごと、渡す。
「普段、ウチはこう言うのは引き取らんのだが」
主人は私の荷物袋を漁って、言う。
「全部置いていきな。SKTへの費用分には、してあげる。」
主人への礼もそこそこに、テレポーターの元に飛び戻る。
一瞬にしてSKTへ戻る。
(チール、お前は私を守って死んだのだろうか・・。)
涙が、止まらない。



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