11.ケリーママ

暗闇の中、さっきの海岸に戻る。
私、
チール、
キグナス
みんな緊張して闇に目を凝らす。
ガシャリ
軋むような音が闇に響く。
来た。
スケルトンが迫ってくる。
私たちは迎え撃つ。

強い!
さっきのタイミングでは、私の剣は弾かれる。
犬たちの牙が、宙を噛む。
2度、3度と相手の剣を受ける。
私はGPを口にした。
濃いミントの香り
のどが詰まる。
無理矢理飲み込むと、腕が、足が軽くなる。
私の剣が相手の盾をすり抜ける。
スケルトンが弾け飛ぶ。
闇に鈍く光りながら落ちてくる骨片をキャッチする。
初めて取った、骨P。
うん、割れてない。
ファインダーさんにあげよう。
荷物袋にしまう。
次のスケルトンが迫ってきていた。
どうにか倒して、赤Pを口にする。
また、一匹。
そして、一匹。
だんだんとHPが減っていく。
疲労が溜まっていく。
どうにか撃退した闇の向こうで音がする。
迷わなかった。
私は帰還した。

*****

犬たちを犬小屋に戻す。
チールが見慣れないローブを喰わえていた。
プロテクションクローク(COP)
どこで見つけてきたのやら。
街に戻ると、一人の女性WIZが声を掛けてきた。
自分で断るんだったな。
振り返った私は、声が出なかった。
夜が避けて通るような、美女。
夏の海のように暖かい笑顔。
秋の畑のように豊かな声。
「そのマーク、トワの所のひとね。」
「は、はい」
「いつからいるの?」
「…」
「どうかした?^^」
「あ、あんまりきれいで」
「^^」
「あ、あの」
「騎士さん、いつトワに会ったの?」
「渓谷についた日に入れて貰いました。」
「それから?」
私は夢中で、話が前後するのも気づかず、今までのことを話した。
渓谷のこと
「孤児」と呼ばれたこと
犬のこと
ハイネから帰れなかったこと
トワさんのこと
ファインダーさんのこと
今日あったこと
女性WIZは私が話し終えるまで、微笑みながら聞いていた。
私が口を紡ぐと、女性WIZは言った。
「トワの所の人なら、いいわ。お友達になりましょう。」
「お、お願いします。ファルクって言います。」
「私はケリーママよ」
「お友達ってどうすれば・・」
「なにもしなくて、いいの^^」
女性WIZはクスッと笑って近づいてきた。
「贈り物を、あげようね。」
すーっ
息を吸って、ケリーママが近づく。
近づく
近づいて、目の前に
ちゅ
「あ」
「ふふ」
「あ、ああ」
「これであなたは私のお友達^^。221番目よ」
「え?そんなに?」
「そう、私はここで、何人ものお友達を作ってきました。みんないい人。ファルクさんも
頑張って、トワを助けるのよ。」
「はい」
「さ、行きなさい。また会いましょう。」
「はい」
ケリーママは手を振り、見送ってくれた。
私は真っ直ぐ、歩けなかった。
さて、どこに行くんだったっけ?

*****

翌朝早く
クランはだれも、まだいない。
今日は東に向かってみよう。
街を抜けようとすると、誰かが呼ぶ。
「ファルクさん、お出かけ?」
可憐な、そしてどこか見覚えのある、姫様が笑って近づいてくる。
「響君?どちら様でしたっけ?」
「だれでしょー^^」
「・・トワさん?」
「はずれ^^」
姫様はおかしそうに、クルクル回り、振り向いた。
「これならわかるかな?w」
そして、急に
ちゅ
「あ、」
「ふふ、ちょっと待ってて。」
姫様は呆然とする私を残して、人混みに紛れた。
そして
昨日の美女そっくりの女性WIZがやってきた。
でも、どこか違う。
「ケリーママ!」
「これは娘のケリーよ^^。髪の飾りが銀なの、わかる?」
クルクルと全身を見せて、ケリーが回る。
「ほんとだ。銀のかんざし、黒い髪にすてきです。」
「ふふ」
そして
ちゅ
「あ、あぁ」
ケリーが急に消えると、ケリーママが立っていた。
「ファルクさんも、イベントに参加するの?」
「イベント?」
「勇者の証(^^。今日から始まる、男性だけのお祭り。女性は参加できないの」
「かわいそう」
「トワや私の分まで頑張って^^」
「私はまだLv13なんです。イベントよりレベルを上げなくちゃ」
「?」
「トワさんやファインダーさんと、早くパーティ組めるようにならなくちゃ。」
「ふふ」
ちゅ
「あ」
「頑張って、ファルクさん。あなたならできるから。」
歩み去ろうとして、ケリーママが振り向く。
「だって、3人の私に同時に祝福されたのは、あなたが最初よ(笑)」


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