12.赤い剣

ぼーっとしたまま、犬を連れ出し、海岸沿いに北へ行く。
小さな半島に着く。
そこは、モンスターたちが溢れていた。
私は黒いオークを、ウェアウルフを、ドワーフを狩った。
次の獲物を追って、走る。
と、
いきなり岩が動き出して、私を殴りつける。
しまった。
ストーンゴーレム(岩ゴレ)を起こしてしまった。
シミターで斬りつける。
岩ゴレは微かに動きを止める。
2撃、3撃・・・
岩ゴレの間接の中には、不思議な色合いの管が通っている。
チールが膝の管を噛み切った。
その瞬間
岩ゴレはバラバラな岩になって倒れた。
が、
私のシミターは刃がぼろぼろだ。
使い物にならない。
恨めしげに睨んでいる私に、一人の黒いオークが声を掛けてくる。
「剣で岩ゴレを叩いちゃったのか。」
私は驚きながらも、刃こぼれしたシミターを振り上げる。
「おっと、俺はモンスターじゃないよ。」
黒いオークが否定する。
「これは変身してるんだ。カモフラージュさ。変身してるとモンスターに襲われないし、
もう少し別の意味もある。」
「別の意味?」
「まぁ、いいさ。君が変身を必要とするのは、ずいぶん先のことだから。それより、こいつを使わないかい?」
黒いオークは、薄刃で中型の斧を差し出した。
ずしっと重い。
「そいつはバーサーカ・アックス(バサ斧)っていうんだ。使っている間はGPを飲まなくてすむよ。岩ゴレを叩くにはちょうどいい(笑)」
「でも・・・」
「あぁ、アデナはいらない。俺はまだ狩りを続けたいんだが、その重さだろう?バサ斧は
売れないし、はっきり言って邪魔なんだよ。君にあげるから上手につかってくれ。」
「ありがとう」
私が礼を言い終える暇もなく、黒いオークは宙に消えた。
バサ斧
バランスは悪くない。

重い。
とても片手では扱えない。
私はシミターをしまい、盾を背負った。
そのまま、私は立ち上がれなかった。
重すぎて動けない。
荷をほどき、犬たちにくくりつける。
犬たちが抗議の声を上げる。
僅かに軽くなった荷物を持って、私たちはふらつきながら街へ向かった。

*****

街を迂回して海岸沿いに船着き場へ向かう。
船着き場の向こうに「パンドラの店」がある。TIで唯一の一般品交易所だ。
私は狩りの成果の他、未使用のGPも売り払った。
そして、パンドラにシミターを見せた。
「刃こぼれがひどいね。」
パンドラは珍しくもなさそうに言う。
「岩ゴレ叩いちゃったんでしょう。あれをやると、刀身がゆがんでリサイクルできないのよ。折れるまで使っちゃった方がいいわ。」
店中響くように言うと、こっそり私に耳打ちする。
「ほんとはね、安値で買い取って鋳潰しちゃうんだけど、教えて上げる。この剣はまだ
使えるよ。」
「本当ですか?」
「えぇ。砥石で何回か研げば、新品同様になるわ。でも、ここまでひどいと砥石が
いくつもいるわよ。」
私は礼を言って砥石を買い込んだ。
砥石に関する限り、店の売り上げの新記録だ、とパンドラは笑った。
街に戻り、宿屋で水を借りてシミターを研ぐ。
幾度も研いでいるうちに、シミターは元の色合いを取り戻していった。
買い込んだ砥石がほとんどなくなる頃、やっと研ぎが終わった。
陽はまだ昼前だ。
私は狩り場に戻った。


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