私は夢中で島中の狩り場を巡った。
何度か@マークが鳴ったが、出なかった。
狩り場とパンドラの店を幾度も往復するうち、ガードの立っている洞窟を見つけた。
ガードは私をジロリっと睨んだが、何も言わずに通してくれた。
洞窟の中は石畳の立派な造りだった。
奥に進むと、二人の副官を引き連れた、男が立っていた。
「お前は騎士を目指しているのか。儂たちには腕の立つ騎士が必要だ。お前の準備が出来ているか、試してやろう。」
男は重々しい声で、私に告げた。
「島の北東の半島に大蜘蛛が出る。お前は一人でその蜘蛛を狩って、牙を取ってこい。
決して犬も、他人の助力も受けてはならない。できるか?」
「やってみます。」
私は答えたが、疑問があった。
北東の半島には蜘蛛はいない。
私が口を挟む前に、副官の一人が告げた。
「急がれよ、ファルク。グンター卿はお忙しいお方だ。」
私は一礼して洞窟を出た。
どこかで聞いた声だ。
洞窟を出るとすぐ、ウェアウルフに出くわした。
ウェアウルフを倒すと、見慣れないコイン様のものを持っていた。
そういえば、さっきからこれが溜まっている。
パンドラさえ引き取ってくれないばかりか、倉庫に入れることも拒まれる。
一つ一つは大した重さではないが、まとまれば馬鹿に出来ない。
ただでさえ、バサ斧は重いのだ。
捨ててやろうか、と考えていたとき、蜘蛛が襲ってきた。
どうにか蜘蛛を倒す。
鎧の肩に牙が刺さっている。
試練を果たす前に、私はやはり疑問を解いておきたかった。
北東の半島に蜘蛛はいない。場所を間違えていないか?
私はそのまま、グンター卿の洞窟へ戻った。
*****
洞窟に入ると、さっきの場所でグンター卿と副官たちが話していた。
談笑というより、口論に近い。
私が近づくと、3人は口を閉ざした。
「どうした、なにか忘れ物か?」
さっきとは別の副官が声を尖らす。
と
手を伸ばして私の肩の牙を引き抜いた。
「驚いたな。もう終えてきたのかい。」
なに、とグンター卿の片眉がつり上がる。
あはは、と副官たちが声を上げて笑う。
「どうやら、一人はゲラド卿の話を覚えている者がいたようですな、グンター卿。」
グンター卿はむっつりと頷いた。
そして私を振り返り、苦々しげに言った。
「見事に試練を果たしたな。剣を一本授ける。この剣は騎士見習いとして儂の元を卒業した証だ。行け。そして仕えるに相応しい君主を見つけよ。」
グンター卿は壁にかけてある幾本もの赤いロングソード(RKS)を見回した。
その間に副官たちが私の腕や身体の寸法を採る。
その数値を見たグンター卿は、初めてニヤリと笑った。
「少し話がある。ついて来い。貴君らも少し休憩しないか?」
そして奥の間に私たちを招いた。
石壁の一部を開いて、何本かの剣を見せる。
「お前、これを使って見ないか?」
グンター卿の差し出した一本を見て、副官が顔色を変えた。
「それは、GPIB!」
「それもIEEE-488」
「グンター卿、いけません。ファルクには私のRKSを!」
「いや、私が貸しましょう。」
なぜ、私の名前を知ってるんだ?
「だめだ。ジョシュアは背が高すぎるし、ファルクはザムザと違ってCON型ではない。
儂は無駄にデータを取ってはいないのだよ。」
ジョシュア、ザムザ!懐かしい渓谷のゲラド卿の副官たち!
二人はナイトバイザーを取り、私にウィンクした。
「しかし、グンター卿」
「黙れ!」
グンター卿はその威厳を爆発させた。
誰もが口を閉じた。
しばらくして、グンター卿が話しかけてきた。
「ファルク、この剣はお前たちにやるのではない。貸し与えるだけで、いつかは返して貰わねばならない。本人が返しに来ることもあれば、剣だけが戻されることもある。
「はっきり言おう。この部屋の剣は、未来の騎士たちのために儂が研究しているものだ。
お前も承知の通り、騎士は魔法を使えない。が、魔法に代わるなにかが無くては、騎士に
未来はない。そのため、魔法以外の技術がいるのだ。そのためのデータ取りに協力せよ。
「これらはグンター私設工房の剣(Gunter Private Industrial Brade)と呼ばれている。
お前に授ける一本は4度材質を変え、8度混合比を見直し、8度鍛え直された。この意味が分かるか?」
「まだ未完成と言うことです。」
私の答えに、グンター卿は声を荒げた。
「違う、完成は目前なのだ!ただ、データが足りんのだ!」
「それはこの剣の使い手が、未だに生きて返しに来ないからでしょう?」
ジョシュアが悲しげに言う。
「私がその剣を拒んだら、どうなるんです?」
私は静かに訪ねた。
「お前には向こうの部屋にある、現行のRKSをやる。」
「そして、その剣は別の誰かが授けられるんですね。」
「未来のためだ。仕方あるまい。」
グンター卿は、そっぽを向いて答えた。
「わかりました。その剣を授けて下さい。」
「ファルク!お前、俺の言ったことを聞いてなかったのか?生還者ゼロの呪われたRKSなんだぞ!」
「だって、私が拒まなければ誰かが使わないですむんでしょう?」
「決まったな。ファルク、これを持って行け。出来ればデータをつけて返しにこい。」
私は呪われたRKSを受け取り、部屋を出た。
背後で微かに声がする。
「ジョシュア卿、ザムザ卿、ふたりは儂とは意見が合わないようだ。どこか良い場所を
探してやろう。早急に」
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