5.サモン

数日後のWB。
倉庫左の空き家の軒下(軒下アジト)にライラエさん、竹流さんとダベっている。
「昨日の夜、全チャ(=レベル30)デビューしました^^」
「お、おめでと〜^^」
「駒子さんからおめWisもらいました。」
「よかったじゃない」
「時子さんを目指すって言ったら、レベル40だから頑張ってね、だって」
「あはは」
「まっちゃんも僕も全チャだし、この頃急に強くなってきたね〜」
「ほんと、どこ行っても、赤く光ってた竹流さんがね〜^^」
「・・この頃は犬使いの竹流で、光ってないもん^^;」
クラン員が次々Loginしてくる。
「そういうことなら^^」
@「今日はファルクの歓迎クラハン、やりましょー^^」、
竹流さんのメッセージを受けて、まっちゃんが、Ganosaさん(ガノさん)が集まってくる。
百地丹波さんが言う。
「竹、どこにいく?」
「そうね〜、砂漠行こうか^^」
「リザ?」
「バジ(^^;」
バジだって?
砂漠最強の魔獣。
あんなの相手にできるのか?
見渡しても、余裕のある顔は、ない。
「竹流、いけるかな?」
「倒せたの、ついこの間だよ?」
「まぁ、騎士が揃ってるから、なんとかなるんじゃない?」
「相変わらず、無責任ね〜^^;」
北砂漠の正式デビューである私は、みんなに聞きながら装備を整える。
WBの東門でPTを組んで、出発。
オーク類、ドワーフ類
人間の子どもほどの蟻が、纏(まと)わり付く。
巨大なサソリが集まってくる。
どの敵も集団全員で協力しないと、きつい。
その中で、竹流さんの攻撃は強大だ。
輝くフォチャードが、確実に倒していく。
ライラエさんの弓援護があってさえ梃子摺(てこず)る騎士たちの背後に跳んできて
敵を一撃で絶命させる。
「すごい!」
「まぁ、ね^^」
その時、ライラエさんが視覚外に矢を放つ!
白い煙が、上がる。
みんなが駆け出す。
一歩遅れて、駆けつける。
緑の巨体
6本の足を踏み鳴らす。
丸太のような尻尾を振り回す。
バジリスク!
1人の輝くような騎士が、ステップを踏みながら戦っている。
そして、打ち倒す。
「すご・・」
「1人で・・」
「騎士なら、そのうち1人でいけるよん^^」
「・・FA取り損ねちゃった;;」
その日見かけたバジは、それ一頭だけだった。

***

WBに戻る。
竹流さんの前に立って、得られたものを全て渡す。
大した額じゃない。むしろ恥ずかしいくらいの額。
「あい、宿屋で待っててね」
竹流さんは労(ねぎら)いの言葉と共に、鍵を一本くれた。
宿屋に入ったのは、初めてだった。
百地丹波さんがベッドに横たわり、ガノさんが魔法書を開いている。
私は簡易ベッドの、まっちゃんの隣に座った。
待つことしばし。
竹流さんとライラエさんが入ってきて、窓際に立つ。
その日の上がりを報告し、均等に分配する。
明らかに私が渡した額より、多い。
3倍近い。
こっそりまっちゃんに尋ねる。
>「私、こんなに取ってないよ」
>「同じく^^;」
>「だれが稼ぐの?」
>「竹さん、かな」
それから、談笑。
「今日はバジ、いなかったね」
「助かったような、残念なような」
「あは」
「でもさ、」
ガノさんが言う。
「この人数だと、ヒールが間に合わないよ」
「ふむ・・・確かにね・・。」
「私もヒールしてるんだけど、MP少ないからねー」
「バジもサモナーがいると楽なんだけどね」
「僕は、まだまだだよ」
「・・・また勧誘でもしますか・・」
強いWizを誰もが必要としている。
心当たりが、1人。
しかし、私は沈黙を守った。

***

HoichiさんからWisがきた。
>「ファルク、どこかケーブ知らないか?」
>「TICなら少し」
>「連れてってくれない?」
え?
>「だってHoichiさん、Lv40でしょ?」
>「今42だけど、ケーブにWizの単独はきついんだよ。騎士とは違うんだ」
>「Hoichiさん、クランとかは?」
>「ずっと独りだったけど、この頃考えてるんだ。なかなかレベル、上げられないし」
>「・・・今、私がいる所のプリンスに会ってみます?」
判る限りを説明する。
欠点や弱点も隠さない。
>「・・・紹介して」
>「あい」
竹流さんが来ているか、探す。
いない。
とりあえず、WBで落ち合う。
倉庫脇でHoichiさんと落ち合ったとき、いきなり竹流さんが現れた。
「おはよ〜」
「あ、こんにちは」
「・・・その人は?」
「こちらはLv42のWizでHoichiさん」
「うはっ」
「ずっとお世話になってるんだけど、クランに興味が出てきたって」
「・・・独りじゃレベルが上がりにくくなってきてて・・」
「うん、Wizは特にそうよね^^」
竹流さんとHoichiさんが互いに値踏みする。
二人が何か言いかけたとき、私は口を挟んだ。
「あのさ」
「ん?」
「私、二人が好きだから、二人に打算で繋がって欲しくないのね」
「どういう意味?」
「Hoichiさんはケーブの道案内や護衛が欲しい。竹流さんは強いWizが欲しい。
それはそれでいいんだけど、Hoichiさんにそういう利害でクランを選んで欲しくない
のよ。
「竹流さんとHoichiさん、お互いがお互いを気に入ったって時に加入するってことに
できないかな?今は体験入隊みたいな形で。」
「あぁ、それはそれでOKよん^^。お客様ってことで、いつ出て行ってもいいからね」
そう言いながら、竹流さんの眼は、自信に満ちていた。
「・・・お願いします。」
f1.Hoichiが室町幕府血盟に加入しました。
「よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくねん^^」
「やった♪」
「肩書きの注文、ある?」
「・・・別に」
「私の肩書き、Hoichiさんに渡してもいいよ」
「ふむ、Wizさんだからね〜」
「・・・それは、ファルクがつけてなよ」
f1.竹流がHoichiに「孤高の魔術師」という呼称を与えました。
「どうです?」
「・・・気に入りました」
その日、Hichiさんはそのまま落ちていった。
「無口な人だね」
「気難しくはないけど」
「ふむ・・・」
「Wizなんて、あんなもんでしょ?」
「まぁ、そうかもね」

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