6.バジリスク

WB東出口前に集合する一団。
プリンス、エルフ、Wiz、騎士。
みんなが見つめる先には、1人のWizが精神を集中させている。
呟き流れる、聞きなれない詠唱。
きっ
眼を見開き、大きなアクションと共に出現した、漆黒の光芒!
グェオヲ〜〜ゥ
輝く闇の中から響く咆哮。
3体の巨人が現れた。
バグベアー(BB)
一同は声も出ず、見つめるだけ。
ぐったりとした様子のHoichiさんが、弱々しく笑う。
「・・少なかったかな^^」
「いや、充分よ。じゃ、出発〜」
竹流さんと私が先頭。
まっちゃんとHoichiさんが最後尾。
その後をついて来る、3体のBB。
まっちゃんは、ときどきBBを振り返る。
ほんとに襲ってこないのか?
もしも・・?
誰の心にも、不安がある。
襲ってくるモンスターよりも、撲殺していくBBに恐怖を感じる。
巨大な兵隊蟻(GAS)が、サソリが瞬殺されていく。
足元を犬が邪魔して、私とまっちゃんはモンスターに接近できない。
「やること、なくなっちゃった(;;)」
「まったく(;;)」
その時、視界の外れに氷煙が立ち上った。
まっちゃんと二人、跳んでいく。
バジ!
前から、右から斬りかかるが、むしろ押されぎみ。
HoichiさんがBBとともに向かってくるが、BBの歩みは、遅い。
ライラエさんは竹流さんの援護で、こちらに気付いていない。
まっちゃんと二人、真っ赤に輝き続ける。
犬たちのHPが下がっていく。
やばい!
その時、巨大な咆哮が背筋を凍らせた。
ビクッと硬直。
そこにBBの巨大な腕が振り下ろされる。
飛びすさんで、転がり逃げる。
が、BBの腕は、バジに向かっていた。
バジが吼え、BBが咆える。
跳ね起きて、巨獣の脇にRKSを叩き込む。
バジが、崩れ倒れる。
やった!
「バジ、倒したの、初めて(^^」
「ぼくも2回目(^^」
私たちをヒールしながら、Hoichiさんが笑って聞いている。
巨大な手助けがいるとは言え、倒せない相手ではないことが判った。
一筋の自信。
次のバジ
さらに次のバジ
その日、私は砂漠に魅入られていた。

***

或る日の過信が慢心を呼ぶ。
砂漠北でのバジ狩りが恒例になりつつあった。
その日、Hoichiさんの体調がすぐれず、ケアできたBBは2頭。
一団で進んでいくと、GASやサソリが群れを成して襲ってきた。
BBが吼え、ガノさんの攻撃魔法が走る。
ライラエさんの弓が鳴り、竹流さんのフォチャードが切り裂く。
私も蟻を始末しつつ、次の敵に回り込もうと動いた。
その時、眼に飛び込んできたのは
竹流さんに突進していく、バジ!
みんな気がついていないか、気がついていても手一杯の状況。
今、バジに突入されたら、みんなが危ない!
私とチール、キグナスは急転換でバジに特攻した。
RKSがヒットし、バジが向きを変えた。
チールが、キグナスが噛み付く。
バジは犬たちに眼もくれない。
私だけを狙って、噛み付き、尻尾を打ち付ける。
見る見る減るHP
ライラエさんの弓の援護がきた。
これは竹流さんの手が空いたことを意味する。
しかし、救援はわずかに遅かった。
バジの角の一撃で、私は意識を失った。

***

朦朧とした意識に、砂漠の風が、熱い。
「・・・ファルク、気がついた?」
「バジに、やられたんだよ」
「ごめん、気がつかなかった」
どうにか身体を起こす。
無性にだるい。
「ファルク、逝ったって?」
「はい(;;)」
「落としたものは?」
「何もないと思います」
「そろそろ切り上げるから、無理しないでついてきて」
「はい」
WBの宿で、その後の冒険談を聴きながらも、ショックから立ち直れない。
SKTの試練を除けば、狩で逝ったのは、あの蜘蛛以来だった。
殊勲賞だと、防具強化スクロール(ZEL)の受け取り手に指名される。
何度か固辞したが、結局受け取った。
ただ、恥ずかしいだけ。
逃げるように宿を出た。
今日のPT全員分の便箋を買った。
文面は一緒。
「【反省文】
本日の狩りにおきまして、バジの突入を阻止するためとはいえ、単独特攻し、
逝ってしまいました。今後は慢心を引き締め、みなさまに迷惑をおかけしないよう
気をつけます。」

***

翌日、竹流さんから長文の返信が届いた。
「【さてさて】
こんばんは〜^^
反省文、受け取りました〜^^。なるほど。。。ナイトらしい視点です〜^^
それでは、僕からのアドバイスを一つ。。。
狩りに出たときは敵の癖を覚えることも大切です〜^^
バジは、一度タゲにして凍らせた後、タゲを変えるという性質を知っていたかな?^^
氷のダメージは70〜100。
単独ではかなりつらい敵だけど、2〜3人いれば何とかなる敵でしたね?^^
っと、まあ、性質ってあると思うけど、うん。確かにバジに単独突入はかなり無謀
だったねん。
でも、その時の事はそれが一番よかった結果だともぼくは取るので、ファルクは
あの場面で逝ってしまったけど、もしも、ファルクがあの場面で時間を稼いでくれ
なかったら僕らも危なかったかもしれない。。。
一概に何がよくて何が悪いなんていうことはないので、深く思いつめないように
してねん^^
あの時はあの時。ファルク自身これが一番いいだろうと思って出た結果なのだから、
名誉の戦死だったと胸を張ってもぜんぜんいいぞっ♪
まあ、戦死はよくないけど、時間を稼ぐなら、稼ぐだけ稼いで多少の余裕を持って
飛んだ後ででも連絡は取れるので逝かないことだけを最優先にするようにだけ
心がけてね^^
ファルク1人逝くだけで結構つらくなるのでまっすぐに戦うだけではなくて、
戦略的に背を向けることとか大きな視線を持つともっとすばらしいナイトになれる
と思います〜^^
でも、あの場面ではありがとう〜^^
思いつめないで、名誉の戦死と胸をはりましょうねん♪
これからもよりいっそう頑張ってまたみんなで楽しく狩しましょ♪
では〜^^
竹流〜☆」
この手紙は、私のお守りとして持ち歩いている。

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