9.グローブ
WBで通りすがりの騎士たちと情報交換していた。
まぁ、立ち話、うわさ話
その内、砂漠の東、SKT寄りをメインにしている、1人の騎士の名前が出てきた。
皆は一様に「砂漠の貴人」と言う。
曰く、勇敢にして清々しい狩りをする。
曰く、力強く、礼儀を重んじる。
一度、会ってみたい、と思った。
その時、Hoichiさんからクラチャが入る。
@「ファルク、暇?」
@「立ち話してます。なんで?」
@「暇なら、TIC、案内してよ。デビルズロード(DR)行きたい」
@「DRってどこです?」
@「TIC2Fの奥から、MLC7Fへの近道さ(^^」
TIC入り口で落ち合い、2Fを目指す。
道々、さっきの騎士のうわさ話をする。
「その人なら知ってる。Goodって言うんだ」
「Goodさん・・」
「ずいぶん世話になったよ。今日はGoodにアイアングローブ(鉄手)を用意してあげ たくてグローブ狩り、さ」
「私もグローブ、持っていません」
「じゃ、一緒にクリッピングクロウ、やるか?w」
TIC2Fの最奥に魔法陣があり、その先は、光ゴケに一面覆われた暗い洞窟だった。
ぬるぬるし、足下が滑る。
ゾンビやグールをかわして進んでいくと、小さなチチチっと音がする。
「・・来たぞ」
Hoichiさんの明かりのなかに、小さな影が忍び寄ってきた。
クリッピングクロウは切り落とされた人間の手を模した、小さなモンスターだった。
不安定な足場、半端に輝く壁、小さな標的
クリッピングクロウに照準が定まらない。
RKSの一撃が外れる。
小さな敵の攻撃は、思う以上にHitする。
切っ先が、ぶれる。
焦る。
と、RKSが当たった。
信じられないほど簡単に、倒せる。

グローブ狩りの難しさはここからだった。
クリッピングクロウは個々に大きさや皮質がちがう。
何体倒しても、なかなか同質かつ対称のやつに出会えない。
手袋で言う、左右をそろえて、初めてグローブに加工が利くのだ。
時間が過ぎてゆく。
「なかなか、出ないね。時間、大丈夫?」
「ちょとギランに用事が・・」
「了解。俺はもう少し、やっていくよ」
「すぐ戻ります」

***

用事を済ませた時、あやさんが入って来た。
@「DRでグローブ、狩ってるよ」
@「私も行きたいな。でも道が・・」
@「ファルクが案内してくれる、よね?w」
@「ぜひ、お供をさせて下さい(^^」
@「・・じゃ、御願い(^^)」
再びTICの入り口に戻る。
犬も、モンスターも連れない、あやさんが待っていた。
入り口付近にしろ、TICにしろ、あやさんにとってキツい敵はいない。
それなのに、明らかに心細げにしている。
PTを組んで、一気にTIC1Fを突き抜ける。
2F、矢仕掛けの部屋。
「ここは?」
「少し痛いけど、我慢して下さい。」
「はい^^」
幾本もの矢が壁から打ち出され、あやさんが小さくうめく。
矢仕掛けの部屋を二つ抜ければ、あとは近い。
DRに戻りHoichiさんに連絡する。
@「今、DR入りました。いかがです?」
@「今日はうまくいかない・・」
グールやゾンビを倒し、クリッピングクロウを狩りながら進む。
何度かHoichiさんと行き交う。
@「だめだ、出直すよ」
@「あい、お疲れ」
@「お疲れさまです」
暗い洞窟に、二人
ポツリポツリ、話をしながらも、耳は小さな足音を探す。
気が付けば、辺りにスライム以外のモンスターがいない。
スライムばかりが大量に蠢いている。
しかたないな
スライムを、叩く。
通常、アイテムを拾われた時か、WizさんがMP補給をする以外は、スライムを 叩く者はいない。
「私だって、敵が消えたらスライムを叩け、くらい知ってます(^^;」
あやさんが、呆れて見ている。
暗闇をさらに進んでいく。
と、クリッピングクロウが寄ってきた。
要領を掴めば、作業は早い。
そのクリッピングクロウは、少し前に狩ったものとサイズ、皮質共にそろっていて 見事に対称形だった。
「やった」
「おめでとう^^」
「あやさん、持ってて」
「・・いいの?よし、ガンバロー(^^」
あやさんのハンター魂に火がついた。

***

行き行きて、行く。
「あの、さっきの話・・」
その時、暗闇から声がかかった。
洞窟の窪みから、1人の騎士が姿を現す。
「?」
「敵が消えたらスライムを叩け、ってどういう事です?」
「あぁ(^^。モンスター密度を下げて、出現確率を上げるんです。」
「やっぱり、そういうの、あるのかな?」
あやさんも半信半疑。
「まぁ、騙されたと、思ってやってみてw」
足下のスライムを叩きつぶす。
と、同時に闇の中からクリッピングクロウが複数、寄ってきた。
「・・ホント、だ・・」
「ね(笑)」
それからは、あやさんが率先してスライムを叩いていく。
(素直な人だ)
そろそろリネージュの一日が過ぎようとしていた。
「出直します?」
「・・もう少しだけ、やりたい」
「あい(^^」
数匹クリッピングクロウを狩った所で、二つ目の対称形がそろった。
「やったー」
「おめでとー^^」
「一個ずつ、ね」
「いいの?ファルクさん」
「もちろんです」
「ありがと^^」
暗闇の中に、輝きが満ちた気がする。
クラチャが鳴った。
@「ファルク、あやなり、どこ?」
竹流さんだ。あやさんを【あやなり】と呼ぶのは、竹流さんだけだ。
@「二人でDRです」
@「グローブ、取れた?」
@「一個ずつ」
@「^^」
@「じゃ、WB、戻っておいで。バジ行くよー」

***

サモンを引き連れれば、いつもの力強いあやさんである。
私は砂漠北でのPTハントに慣れてきた。
眼の端や耳でみんなの動きを察知していく。
ガノさんとHoichiさんでは、ローブの衣擦れの音が違う。
あやさんが魔法を撃つ時、銀色の輝きを感じる。
ライラエさんが攻撃するとき、風が金色に染まる。
そして、ライラエさんの弓の先には、必ず竹流さんが、いる。
まっちゃんと二人、遊撃しながらも視界の外の動きを読んでいく。
大量のサモンと犬がいては、FAを取るよりサポートに廻る方が私には合っている。
宿に戻り、分配する。
室町幕府クランでは、アデナ、アイテム、武器防具その他すべてを一度、
竹流さんに渡し、アデナに換算して山分けする。
ZELやDAIは合議。
だから「俺の獲物に手を出すな」は、ない。
弓でFAを取り、剣で叩き伏せ、魔法で回復する。
システマイズされた共同作業。
宿で取り留めもなく、話している。
「竹流軍団の4匹、すごいだろー^^」
「竹さん、犬が多くて、僕、仕事ないよー(;;)」
「犬狩り竹流、卒業かしら^^」
「ふむ、次から犬の数、減らすとしますか^^;」
口を挟む。
「今日、初めて騎士らしい仕事できた気がする・・」
「ん?どこで?」
「あやさんとDR行ってて、感じたんです。誰かを守るって、好きです。」
フフッ、とあやさんが笑う。
「私のナイトさんでした(^^」
身に余る光栄!
私はあやさんの前衛を務めたい、と心から思った。


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