13.2人のエリート

軒下に顔を出すと、昨日のWizさんと見知らぬ騎士がライラエさんを取り囲んでいた。
「はじめまして。ファルクです」
「Rosielです」
「昨日はごめんなさい」
「いいよ」
「長くやってるんですか?」
「経験は長いよ。レベルは低いけど」
自虐的な口調に傷ついたプライドが流れ出る。
「俺、リザ行って来る」
「あい、気をつけて^^」
あれ?
見知らぬ威丈夫(いじょうぶ)の口調は、竹流さんそのもの。
ライラエさんが笑う。
「この人、竹流さん、なのよ^^」
Esperanto
騎士が名乗る。
背が高く、均整取れている。
手足が長く、理想的な筋肉。
そして竹流さん独特の、甘いマスク。
抜群の才能を、惜しみない努力で磨いてあるのが、わかる。
ライラエさん唯1人を守るために、育てたそうだ。
ライラエさんが見取れている。
しかし、彼女以上に見惚れている人物が、いた。
Esperanto自身。
誰をも惹き付けるその魅力は、彼自身をも虜にしてしまっているようだ。

***

「ところでさ、」
「ん?」
「Rosielさんの肩書き、なにあれ?」
私の口調に非難がこもる。
(彼の肩書きはここに示さない。余りの不愉快さに、思い出したくない)
「あれは本人の希望よ。僕があんなの付ける訳、ないでしょ^^;」
「ほんとだね?」
「もちろん^^」
なにか言いかけた途端、
ドタン
人が倒れる音がした。
あわてて抱き起こすと、Rosielさんだった。
「死んじまった。また、レベルダウンだ・・」
ライラエさんの介抱に意識を回復したRosielさんは、悔しさを隠さない。
「ちくしょう、もっとMPがあれば!もっと魔法に威力があれば!!」
「いったいどんな狩り、してるのさ?」
騎士の扮装を解いた竹流さんが聞く。
「どんなって、普通だよ」
Rosielさんが説明する。
通常、リザ砂漠で見かける、Wizさんには普通の手順。
「じゃ、行って来る。」
「もう?」
「あぁ、時間が惜しい」
「付いていって、いいかな?」
「・・いいよ」
4人してリザ砂漠へ。
ウィンダウッド城(WW城)を回り込むと、リザードマン(リザ)が寄ってきた。
Rosielさんがエネルギーボルト(EB)を打ち込み、彼の犬が駆け出す。
Rosielさんが身構える。
別の一頭が、寄ってくる。
EBが再度、打ち出される。
リザが彼に突進する。
犬は、先のリザを倒し切っていない。
Rosielさんは、引きながら、攻撃魔法を連発する。
EB、ライトニング、ファイアーボール(FB)
私たちは弓で支援しながら、呆気にとられていた。
確かにRosielさんの魔法は、凄まじい。
EBがこれほどのものか、と驚く威力。
打ち出される瞬間、周囲が爆発するかと思う程の威圧感が、ある。
その意味で、Hoichiさんを凌ぐほどの「天才」なのだ。
Hoichiさんは、私の知る限りで、Topクラスの才能を持っている。
決して「普通」レベルでは、ない。
それなのに
魔法とは無縁の、凡庸騎士をして、震えるほどの力を感じた。
しかし、これではすぐにMPが底をつくだろうことは、私でも分かる。
一時の静けさの中で、竹流さんが言う。
「ロシさん、これじゃ、狩り場に長居できないでしょ」
「うん」
「もっとリザ集めてから、FB撃ったら?」
「囲まれて、何度も死んだから、いやだ」
「途中でMP吸わないと、切れちゃうよ」
「分かってるけど・・」
「ふむ、マナスタッフ(SOM)取るまでは、我慢かな。試練受けるときは
手伝うよ」
SOMはモンスターのMPを吸い取り、自分のものにする、Wiz必携の杖だ。
「あんなもん、すぐクリアしたさ」
「え、じゃ、どうして使わないの?」
「・・落としちゃったんだよ・・。だから買い戻すのに、金がいるんだ!」
「でも、その狩りじゃ・・」
「俺はWizだからな、魔法でやる!レベルが上がれば、MP増えるじゃん」
竹流さんが、黙った。
黙ったまま、肩から弓を下ろす。
「これ、僕が歌う島(SI)から、ずっと使ってるハンターボウ。思い出が
いっぱいだけど貸してあげる」
Rosielさんは受け取り、寄ってきていたリザで試射する。
「お、よく当たる^^。どれくらいの威力あるの?一撃でリザなら倒せる?」
「そんなには威力、ないよ^^;」
「・・意味ないじゃん」
「そんなことないよ。上手に使えば」
「まぁ、借りておく」

***

それでも弓狩りを併用しているようだった。
やられた、と言わなくなった。
接続時刻とレベルの関係で、私はRosielさんと行動するようになった。
とは言っても、FAを取るのも仕留めるのもRosielさんの係り。
私は彼がMPを回復する間の護衛、といったところ。
それに、急に落ちたりするから、その場を離れられない。
彼に合わせて、ハンターボウと犬を使った狩り。
別行動の時でも、必要物資の補給を頼まれることが増えた。
騎士は一部を除いて、裕福なことは、ない。
それでも狩りを途中で切り上げてでも、赤Pその他を補充した。
ある日の狩りが終わった後、
「ファルク。ここのクラン倉庫、扱いが雑じゃない?」
「そうかな」
「だってアデナや結構、値のはるものが放り込みっぱなしじゃない」
「まぁ、あれば誰か使うだろ、くらいの感じです^^;」
Rosielさんが話し始めた。
「俺さ、前はプリだったんだよ。リアルの友達に誘われて、この世界に来たときの
こと、さ。みんなもうクラス決めてて、プリしか残ってなかったんだ。
でも、随分いたずらされたなー」
「どんな?」
「例えば、さ。クラン倉庫一杯に、キャンドル詰め込まれたり。わかる?出して捨てる
ためだけに6kも使って!何度も何度も引き出して!」
「酷いね」
「で、プリはやめた。Wizにしたら、もっとだった。」
「・・・」
「クラハンとか、いくじゃん。FAどころか狩りに参加させてもらえなくて、
ヒールばっかり、だろ?ここと違って分配なんかなかったから、モンスター倒さないと
稼ぎにならないんだよ。狩りが終わって、みんながドロップの話してても、聞いてる
だけだった。その上、MP切れてヒールできなくなった途端に、経験値が無駄に
分配されるって、PTから追い出されたりしたんだ」
「おぉ・・・」
「それに俺、自宅の回線、変になってて、ネカフェなんだ。なのにここ、よく
落ちるんだよ。その度に死んじゃう。再接続したら、周りはモンスターだらけで、
みんなは余所に移ってた、なんていつもだったよ。」
「護衛しててくれないんだ。」
「それでみんなは、どんどんレベル上げちゃうだろ。今度はそれで、俺のこと
馬鹿にするんだ・・。だから、抜けた。早く強くなって、見返してやるんだ!」
「でも、焦っちゃダメだよ。それだけの才能あるんだから」
「・・・ギランで銀矢、買ってくる。それにちょっと休憩してくるよ」
「あい」
Rosielさんが落ちた後、私はクラチャでみんなに助けを求めた。
あやさん、Hoichiさん、まっちゃん、百地丹波さんが、いた。
今聞いたばかりの話を伝える。
どうしたらいいのか、何が悪いのか、相談する。
百地丹波さん曰く「ここで人生修行できるなら、安いもんじゃない」
「でも、これだけされたら、傷つくよ。私なら立ち直れない!私にはわからないんだ。
私だけじゃ、だめなんだよ!」
私は、リアルで泣いていた。
その雰囲気は、伝わっていたようだ。
「ファルク、聞いてた」
「Rosielさん、ごめん。でも、私だけじゃ、どうしたらいいか、わかんなくて(;;)」
「いいよ、ありがとう^^。ところで、ギランで迷っちゃった」
「だれかギランにいる?」
「今、ギランだよ」Hoichiさんが言ってくれる。
「RosielさんにWizのアドバイスとか、お願いできます?」
「あい^^」
「わたしも行こうか?」あやさんが言ってくれる。
「お願いします。Rosielさん、2人と合流して」
「合流って、俺、迷子だよ^^」
「見つけたよ、ファルク。OKだ」
「わたしも合流した」
「ありがとう。頼みます」
「ファルクさんがお礼、言うことかしら^^」
それでも私は、感謝で一杯だった。
WizのRosiel。
幾つもの出会いの中で、ひとつでも出会い損なっていたら、なっていだろう私の影


表紙に戻る

次へ…