14.追憶
生き急ぎ、死に急ぎと言われた、私。
みんなに追いつこうと、前ばかり見ていた、私。
Hoichiさんは、この世界を紹介してはくれたが、急き立てはしなかった。
トワさんやFainder先輩は、いつも側で見守ってくれていた。
竹流さんは的確なアドバイス以上に、落ち込みやすい私を精神面でケアしてくれた。
ライラエさんは優しい視点、別の考え方を豊かな経験から示唆してくれた。
百地丹波さん、まっちゃん・・みんな競うことを自分の糧にはしたが、それを
嘲(あざけ)りや蔑(さげす)みにしたりは、しなかった。
今にして、思う。
私は、恵まれていたのだ。
私がレベルを上げること、経験値を稼ぐことは、いつも「誰かの役にたちたい」
思いが根底にあった。
決して「見返してやろう」「嘲り返してやろう」と言った、負の感情からではなかった。
この世界では、経験を積むことで、生き抜きやすくなる。
だが、「何のために」への目標は明示されない。
誰もが自分で立てた目標に向かって、鍛錬されていく。
しかし、時として「手段」であるはずのレベル上げが「目的」にすり替わってしまう。
何のために、生き抜く?
誰のために、生き抜く?
日々、自問せねば。見失いがちな、道。
私は竹流さんを、クランの仲間を、そしてまだ見ぬ誰かを守るための、「守りの剣」に
なりたいと、思った。
***
Rosielさんは、Hoichiさんとあやさんのアドバイスを聞いたようだ。
しかし、それが全て良い方向に向かうとは、限らない。
判断ミスでの死亡は減ったが、回線断までは防げない。
彼の悲劇がクラチャに踊る。
しかし、その全てにみんなが応答できるわけでは、ない。
自分に苛立ち、Rosielさんがクランを脱退する。
竹流さんが、ライラエさんが翻意を則し、連れ戻す。
毎日のように繰り返される、追いかけっこの日々。
こういう無意味なイタチごっこは、疲れる。
私は、また「休暇旅行」にした。
その旨を宣言して、クラチャも答えない。
グンター師の洞窟に出掛けてみた。
グンター師が怪訝そうに、目を向ける。
黙ってRKSを差し出す。
「もういらんのか?」
「・・・中間報告です」
私のRKSを受け取ると、ものも言わずに私室に飛び込んでいく。
私は入り口広間の柱に寄りかかって、待った。
グンター師を呼ぶ、若い騎士の声がする。
(ダイヤも、こうだったな^^)
想いが時を駆け上る。
***
Daiyamondeさんがクランに居付いて、しばらく経った頃
@「調子よく、やってる?」
@「うん、あと少しでグンター師の試練、受けてみようって思ってるよ」
@「おぉ。今、どこ?」
@「TICで〜す^^」
TIC1Fをうろつくと、Daiyamondeさんがいた。
「来てくれたんだ^^」
「付き添い^^」
「もう少しだな、っては思うんだけど、もう一つ感じがつかめないんだ」
「一緒に回ってみよ^^」
オークFやゾンビ、骨では、確かに力負けなど、していない。
2Fに誘導する。
階段すぐの青銅の扉から、中に入る。
骨斧、骨槍、骨弓・・。
アンデッドが途切れない。
Daiyamondeさんの表情が、締まる。
剣の唸りから、迷いが抜けていく。
一体のグールを切り倒したとき、一瞬、彼が輝いたように感じた。
「・・なにか、掴んだ気がするよ」
「感じを忘れない内に、あと少しだけ、やっていこう」
「安全圏、だね^^」
手持ちのPOTを使い果たしたところで、一旦帰還。
戦利品を売りさばき、身軽になる。
そしてグンター師の洞窟へ
2人の副官が、変わっていた。
グンター師は私に目線で
「黙っていろ」
と告げると、言い慣れた台詞を繰り返す。
Daiyamondeさんが神妙な面もちで聞いている。
師が背を向けたので、二人して洞窟を後にした。
「グンター師、なんて言った?」
「北東の岬で、蜘蛛を倒してこいって」
「・・君の試練だ。先を歩いて」
怪訝な様子を無視して、Daiyamondeさんの後ろに回る。
北東の岬は、混んでいた。
蜘蛛を探して、Daiyamondeさんがモンスターを蹴散らしていく。
惚れ惚れするような、見事な太刀筋。
戦利品で動けなくなる前に、声をかける。
「・・・北東の岬に、蜘蛛はいないんだよ」
「え?」
「あのおっさんに、引っかけられたんだ」
「知ってたの?」
「騎士なら、考えるんだ。例え相手が高位の者やプリであっても、言われたことを
鵜呑みにしちゃいけない。疑えって言うんじゃなく、自分の経験と照らし合わせて
真実を語っているか、見定めろってこと。じゃないと【使い捨ての歩く壁】に
されちゃうよ」
「じゃ、蜘蛛は?」
「グンター師の洞窟の近くに、いるよ」
「・・1人で行ってみる」
「町で待ってる」
一旦、町に戻り、出撃していくDaiyamondeさんを見送る。
自問
最初に教えるべきでは、なかったか?
最後まで付いて行くべきでは、なかったか?
北西出口の前で、道の向こうを睨んでいた。
***
>「蜘蛛、やったよ^^」
>「おめでとー^^」
>「けど、爪なんて出ないよー;;」
>「落ち着いて、荷物を確認して」
>「あった・・・・あ〜〜〜」
>「どした?」
>「荷物整理しようとして、爪、捨てちゃった・・」
>「あぅ(;;)」
>「もう一度、行って来マース」
騎士は、一試練生涯一度、とされていた。
もう一度って、あるのかな?
悩む間どなく「再度ゲットー」の声。
>「荷物整理なんかいいから、グンター師の所へ行きなよ〜」
>「RKS、受け取りました〜〜」
@「Daiyamondeさんが、レッドナイトに合格しました〜」
@「おぉ、おめでとー」
@「ドモドモ(^^)」
その時、竹流さんが入ってきた。
@「こんにちは〜」
@「Daiyamondeさん、報告しな」
@「ん?なにかあったの?」
@「いいよー^^」
@「お祝い事は、派手にしなきゃ(^^。ひょっとしたらお祝いくれるかも、よ^^」
すーっと息をのむ感覚
@「Daiyamonde、グンターの試練に合格しました〜〜」
@「おめでとー^^。そう言うことなら、お祝いあげるから、軒下においでー」
@「私、お祝いもらってないw」
@「ファルクは、ずっと前に取ったんでしょ^^;」
ケントの西に戻り、ドワーフを追っていると
@「みなさんにお願いがあります」
@「なんだい?」
@「これからは僕のこと、呼び捨てにして、もらえませんか?」
同等の騎士は、呼び捨てされて、一人前。高位者は、別(^^
@「了解、ダイヤ、がんばれよー」
まっちゃんが誰より喜んでいる。
みんなに呼び捨てされて、ダイヤが照れている様子が、わかる。
蒼い彗星は輝く尾を長くのばし始めた。
***
グンター師が出てきた。
私のRKSを持っていない。
「なかなか面白いデータだ。しばらく預かる」
言うなり背を向けたグンター師に
「しばらくって、いつです?」
「解析が終わるまでだ。終わったら届けてやる」
その時、クラチャが鳴った。
@「Aya7です。BBサモナになれましたー^^」
@「おめでとー^^。もう召還、した?」
@「まだです」
@「みんな仮アジトに、集合〜〜。休暇中でもだぞ^^」
もちろんだ。
私はグンター師の洞窟を飛び出した。
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