15.競争

ハイネに行く前に、ギランに寄り道。
剣を取り上げられては、身体が軽くて落ち着かない。
武器屋に飛んでいき、ギラン十字に戻ると、ハイネの噴水に飛んだ。
仮アジトにいくと、竹流さん、ライラエさん、あやさん、Hoichiさん、まっちゃん。
見慣れたいつものメンバー。
「では、岸辺に移動〜^^」
町を外れ、森を抜けて岸辺にいく。
対岸にハイネ城が白く輝いている。
いつもは食い入るように見つめる竹流さんが、振り仰ぎもしない。
「みんな、あやなりから少し離れて」
あやさんが息を、吸う。
「どきどき」
あやさんの、そして私たちの心臓の音が、背後の水音に混ざっていく。
瞬間
漆黒の輝きが爆発した!
銀色の光を纏(まと)って、BBが3体、姿を現した。
周囲を威圧するような巨体。
大人しくはしているが、隙のない様子。
「やったー」
「ぱちぱち」
ライラエさんが数え切れないほどの花火を打ち上げる。
「ありがとうございます」
ライラエさんの打ち上げが終わって、あやさんが言ったとき
ヒュルルル〜、パ〜〜ン
私は一発だけの花火を打ち上げた。
「ささやか^^」
「・・ありがとう、うれしい^^」
私はBBに近寄ってみた。
「危ないから、叩いちゃだめよ!」
あやさんの声が、甲高い。
そっと撫でてみる。
「ぶよぶよ?w」
「すべすべだけど、硬いよ^^」
「どれ」
まっちゃんも近寄ってきた。
「叩いてみっか、ファルク?w」
「2人ともいたずらしてると、知らないからね^^」
「せっかくだから、このままラミア、行ってみよー^^」
「もぅ、いつも無責任なんだから^^」
ライラエさんは笑って、弓の手入れと矢の数を数え始めた。

***

HoichiさんもBBを召還し、見た目大部隊で行動開始。
私は私で、試し切り。
「ファルク、なんだ、それ?」
「買いたてのn−刀(^^)」
「いいな〜^^」
狩りは長時間におよび、あやさんのBBは帰還する前に解体された。
帰り道
護衛を無くしたあやさんが、か細く見えたのは、気のせいだろうか。
仮アジトすぐ側の宿に入る。
BBサモンの注意点などをHoichiさんがレクチャしている。
と、ポツリ、と
「みんな、聞いて」
竹流さんが話し出した。
「その内正式に通知するけど、僕は、城取り、やめた。城はやめて、アジトを
買います」
「え?」
「どうして?」
「なんとなく、ね。気が変わったの^^」
なんとなく所か、その表情にはキツイ決意が満ちていた。
事ある毎に、「戦争するなら協力しない」と言い続けたライラエさん。
それに対し「参加希望者以外は強制しない」と応じてきた竹流さん。
輝くハイネの街を、ライラエさんと見下ろすんだ、と。
その竹流さんが、やめると言い切った。
重い沈黙。
「言い出し難くなっちゃったな」
あやさんがつぶやく。
「あやなり、なに?」
「私、近い内に旅に出ます」
衝撃が、走る。
「クラン、抜けちゃうの?」
「ううん、リアルで出掛けるの。2ヶ月くらい」
「いつ、行くの?」
「来月、かな。それまでにHoichiさんに追いつきたい^^」
リアルの時間が、私たちにのしかかってきた。

***

あやさんの成長は、早い。
Hoichiさんとの差は歴然だが、執拗に追いつめていく。
あやさんの前衛を勤めたい。
そのためには、置いて行かれるわけには、いかなかった。
まっちゃんもその思いは同じだったのだろう。
あやさんの一言が、クランに火を付けた。
まっちゃんと私では、常にまっちゃんが一歩リードしている。
武器、装備、鍛錬
戦闘スタイルが違うから、一概では言えないが、遅れをとっていることは
自分が一番よく知っている。
まっちゃんの、傷を受けても突進していけるパワーは、私にはない。
勢い、【剣技】に向かう。
まっちゃんは、BB荒れ地から北砂漠単独に移った。
私はケント西の森から火田民村に、居着いた。
SPオーク達の技量は、数の多さもあって、ドワーフウォリアの比ではない。
お互いにクラチャで励まし合いながら、自分を鍛え、練っていく。
まっちゃんとの差、あやさんとの差を意識する毎日。
そんなある日。
グルに補給にきたところ、懐かしい名前を見かけた。
Venusさん。
忘れかけていたトワさん達との日々を思い出した。
>「Venusさん、こんにちは^^」
>「・・こんにちは」
>「お元気でした?トワさんの様子、知ってます?」
>「・・いえ」
言葉を継ごうとした時、
>「あの、誰かとお間違えでは?」
>「え?♂エルフのVenusさん、ですよね?」
>「そうですけど」
>「かなりベテランの」
>「まだ、冒険に出て間がないです」
>「・・・」
>「この間は、竹流さん、って呼ばれたし・・」
>「・・失礼しました」
夕闇に包まれた町に立ちつくす。
なぜ、Venusさんが竹流さんって呼ばれたんだ?
竹流さんが通りかかる。
「ファルク〜、なにやってるの〜^^」
「・・・」
「どうしたの?元気ないね^^」
「今、さ」
「うん?」
「Venusさんと話したんだ・・」
「・・・」
「竹流さんって間違いWisがきたって」
「・・・」
「どう言うこと?説明してくれる?」
「・・・その話は、こっちで」
沈黙した竹流さんについて、宿屋に入る。
ライラエさんがロビーで待っていた。
3人して部屋に通る。
しばし、沈黙。
私が切り出した。
「Venusさんてエルフ、トワさんのこと、知らないって」
「・・」
「冒険し始めたばかりなのに、間違いWisが来たって」
「・・・・・」
「竹流さん、って呼ばれたって!どう言うこと!みんなして私をからかっていたの!!」
「・・ちがう。からかってなんかいないよ」
「だって、そうじゃない。トワさんが姫を休むっていうから、全然知らない人の所へ
戻れないつもりで決心したのに!持て余したトワさんの手の内で、たらい回しに
されてた、それだけだったの?」
「・・そうじゃ、ないんだ・・」
「竹流さん、あんた、Venusさんなの?」
「・・うん」
「そっか、私がWisした後に、ファルクさんが声かけちゃったんだね・・」
それまで黙っていたライラエさんがつぶやく。
「みんな知ってて、私だけ、知らなかったってことね!!」
「私も知らなかったのよ。知らない内にエルフ、消しちゃうんだもの」
私は完全に怒っていた。
指がクランマークに、かかる。
むしり取って、突き返してやろう
「確かに僕はVenusだった。黙っていたのは謝るよ。でもね、トワが疲れちゃったとき、
彼女、ファルクを1人にできないって悩んでて、僕に相談してきたんだよ。
「僕も丁度、プリを軌道に乗せたところだったから、仲間が欲しかった。トワが
復帰した時、ファルクがどうするかは、ファルクに任せるつもりで引き受けた。
トワが帰ってきたからサヨナラって言う気はなかったよ」
「結局、私は必要とされてないんだ。いつ帰ってもいい、なんて」
「そうじゃないって。ファルクの自主性で選んでいいって意味だよ」
「私は騎士だからね、自分を必要だって言ってくれる人の所にいたい。そんなお好きに
どうぞって言われても、うれしくない!」
「・・・・」
「最近、トワさんに会ってるの?」
「うん。ファルクのこと、伝えてある」
「どんな様子?」
「そろそろ復帰するみたい・・」
「トワさんは私のこと、どう言ってた?」
「ファルクのことは、自分で決めていいって・・」
「・・どっちにも必要には、されてないわけだ・・」
「ファルクさん、クラン、やめちゃうの?」
「だって・・」
「私、いやよ!誰もいなくなって欲しくない!竹流さんはどうなのよ」
「僕からは、いてくれって、言えないんだよ・・。いて欲しくとも、ね」
私は室町幕府に来てからの日々を思い出していた。
いつの間にか、おれんぢTVで過ごした日々を越えていた。
輝く希望を感じさせるプリンス。
優しく、力強い仲間達。
翻(ひるがえ)って、トワさんと新しいクランを育てていく事にも、興味がある。

葛藤
沈黙

「私がずっと、ここに置いてくれって言ったら、置いてくれる?」
「もちろんだよ」
「竹流さんが輝かなくなったら、出て行くよ」
「・・・行けるかな^^」
「これからも、お世話になります。」
「こちらこそ、ヨロシク^^」
「よろしくね^^」
その日、初めて室町幕府の騎士になった気がする。


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